整形外科 股関節チーム
診療医長 川口 泰彦
小児から成人、高齢者まで、股関節周辺の疾患・障害の診療を幅広く行っています。
小児疾患では乳幼児股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症など、また、成人疾患では変形性股関節症、大腿骨頭壊死、リウマチ性股関節障害などが中心となります。最近では、高齢者の骨粗鬆と関連した脆弱性骨折や急速破壊型股関節症、活動的な成人に多く見られる大腿骨臼蓋インピンジメント障害、関節唇損傷なども増加しつつあります。
股関節は、太ももの付け根にあり、歩く・走る・座るなどの動きをする時に私たちの体を支えるための重要な役割を果たしており、通常歩くだけでも体重の3〜4倍の力が股関節にかかっているといわれています。
その股関節には、球形の大腿骨頭と呼ばれる部分とその周りにお椀型の寛骨臼があり、大腿骨頭を寛骨臼の中に繋ぎとめておけるように大腿骨頭と寛骨臼の表面は軟骨に覆われており、自由な動きができるように筋肉や靭帯で安定性を保っています。
子どもは大人と比較すると身体の成長が著しい時期にあるため、痛みを訴えていたとしても成長痛によるもので自然治癒していくものか病気によるものか判断が難しい場合があります。しかし、成長のスピードも速いことから異常があった場合には骨の変形や破壊も短期間で進行してしまいます。
小児と成人の股関節疾患、障害の代表的なものについて、当科で行っている治療の概略を、最近行った症例のX線写真とともにお示しします。
小児股関節における代表的な疾患は、乳幼児股関節脱臼とその治療後の遺残障害、大腿骨頭すべり症、ペルテス病などです。
開排制限(股関節の開きがかたい)、骨盤位(逆子)で帝王切開となった場合、家族歴(母や祖母に治療歴がある)のある場合、向き癖が強い場合、ご家族に希望のある場合には一度ご相談ください。
6か月未満の乳児の場合、股関節部分の骨は軟骨成分が多く、レントゲン検査では軟骨はうつらないため、脱臼の診断は困難です。そこで、超音波を用いて軟骨部分を含めた検査を行い、現在脱臼しているのか、あるいは今後脱臼する可能性が高いのかなどの診断を行います。検査の結果をみて、再検査、治療の必要性について判断しています。
生後3、4か月健診などで早期に発見された脱臼の多くは、外来での装具治療により整復が期待できます。約80%で整復が期待できますが、整復できない場合には一度はずして再び装着する方法もあります。完全脱臼であれば、約3か月間装着します。
外来での装具による
治療リーメンビューゲル
入院して行う牽引療法
オーバーヘッドトラクション法
装具では整復が困難な場合、脱臼度が強い場合(無理に整復を行うと骨頭壊死をおこす可能性があります)では入院での牽引療法 (生後7か月ころより)を行います。牽引のやり方にもいろいろな方法はありますが、当院ではオーバーヘッドトラクション法を採用しており、約6週間の入院、牽引のあと、麻酔下にギプスを巻いて退院、その後は外来で装具を作成し、約3か月間の装着を行います。
それでも、整復が困難な場合、また一度整復されても再脱臼した場合や歩行開始後(1歳以降)に脱臼が発見された場合には、手術による整復術(観血的整復術)が必要となります。切開して関節の中を観察し、整復のじゃまをしている組織(脂肪、靱帯、関節包など)を切除し、手術後に6~8週間のギプス固定を行います。まだ骨は小さくうすっぺらいため、骨に対する手術はまだできませんので、脱臼の整復を行った後は、外来で骨の成長に関して経過観察を行います。
牽引後のギプス固定
(開排位)
ギプス後の装具
(とりはずし可能)
手術後のギプス固定
(術側は胸部~足先まで)
以上の治療で脱臼が整復された後は、骨は徐々に成長していきます。しかし、5~6歳くらいになっても骨盤の発育が十分でなく大腿骨をしっかりと包み込めない状態が続く場合(寛骨臼形成不全)、将来的に変形性股関節症へすすむ可能性が高くなります。その遺残障害としては、大腿骨頭の亜脱臼、変形、壊死、あるいは寛骨臼形成不全などがさまざまな程度に混在しています。そこで、その時点で必要と判断された場合には、骨盤骨切り術(骨盤の骨を切り、その向きを変えてあげることで股関節がよりよい形に発育することを助けてあげる手術、ソルター手術など)を行います。
また、4歳以上でではじめて脱臼が発見された場合には、観血的整復術に加え同時に骨盤や大腿骨の骨切り術を行う可能性は高くなります。
2歳4ヶ月で発見された
左先天性股関節脱臼
観血的整復術+骨盤骨切り術後
先天性股関節脱臼遺残障害
大腿骨内反骨切り術+
ペンバートン骨盤骨切り術後
成長のスピードが増す10〜14歳ころ(男児では12歳、女児では11歳ころ)に多く、骨頭先端の丸い骨端部が成長線を境として徐々に、あるいは急激に、ずれを生じる疾患です。一度すべりがはじまると時間とともにすべりの程度は大きくなっていきます。
徐々にずれが進行し、痛みや跛行(脚をひきずって歩く、足先が外側を向く)があっても歩行が可能なものを安定型といい、これに対し、急激にずれが進行して骨端部がぐらぐらとなり、まったく歩行不能となるものを不安定型といいます。
治療法としては、できる限り早い、軽症な時期にみつけて早めに治療(手術)を行うことです。現在のところ手術以外の方法で、すべりの進行をおさえられたという報告は ありません。
に対しては、当科では、そのままの位置で1本のスクリュー固定を行っています。この時、スクリューの外側端を骨から長く突出させることにより、骨頭の発育障害を防止しようとするダイナミック法を採用しています。
当科では、そのままの位置で1本のスクリュー固定を行っています。この時、スクリューの外側端を骨から長く突出させることにより、骨頭の発育障害を防止しようとするダイナミック法を採用しています。
右安定型大腿骨頭すべり症に
対するダイナミック法スクリュー固定術後
骨端線の閉鎖が確認できた時点(骨の成長が終了し、これ以上すべりが進行する心配がなくなった時点)で、抜去を行います。目安は初回術後から1~3年後くらいです。また抜去の際に、すべり部での骨のでっぱりが残り、深く曲げた際に痛みが出る場合(FAIと呼びます)にはその骨を削る処置を追加することもあります。
骨頭より下方で骨切り術を行い、ずれた骨端部を関節内の正しい位置へと呼び戻すような治療法をとっています。基本としているのは転子部での屈曲骨切り術であり、ずれの方向に応じて少々の内反や外反を加えています。
高度大腿骨頭すべり症
大腿骨転子間部屈曲骨切り術後
抜去(プレートやスクリューを抜く手術)に関しては、上記の場合とほぼ同じです。抜去後1か月は松葉杖をついて、骨に無理がかからないように注意していただきます(抜いたあとの穴の部分で骨折をおこす可能性があります)。
当科では、上の症例のような難易度の高い手術に際しては、術前に3次元CT画像による立体的な評価を行っています。図では、変形した右大腿骨(ピンク)を、正常である左大腿骨の像を反転したもの(緑)と対比しながら評価しています。
次に、コンピューター上でシミュレーション
手術を行います。右図のように、骨切りする
部位、傾ける角度、固定方法などをシミュ
レーションして決定していきます。
さらに、得られたCTデータをもとに、特殊な技術を用いて実物大の石膏モデルを作成します。実際の手術では骨の全容を直視下におくことはできず、骨の一部のみを見ながら手術を行うことになるため、この石膏モデルを参考にして骨の3次元形態をイメージすることに役立てます。骨切りの位置、方向、骨片移動、2種類の固定材料(A、B)の刺入位置と方向などを計画通りに行うための指標として活用しました。
骨端部が安定性を失って股関節内でふらふらしている状態です。このタイプのすべり症は非常に重症型とされ、骨端部へ栄養を与えている血管を損傷していることが多く、骨頭壊死など合併症を生じる危険性が高いため予後不良とされています。
当科では、できる限り骨頭壊死のリスクを低減するとともに、治療後の機能成績を高めるという目的で、全身麻酔下に関節を切開し骨端部への血流を確認しながら徒手整復を行い、最も安定し、血流がよく確認できる位置で2本のスクリューで固定する治療方針をとっています。途中で合併症を生じてしまった場合には、それに対する手術が必要となることがあります。
不安定型大腿骨頭すべり症
観血的整復の後スクリュー固定
退院後は自宅で1~2週間ほど自主訓練を行い、自信がつけば両松葉杖を使用し登校を許可します。登校に関しては、学校側との相談が必要となります。松葉杖の使用に関しては、外来で経過をみながら片松葉としていきますが、杖が不要となるまでは手術後4~6か月の予定です。
術中に血行が非常に乏しい場合、術後の経過で骨頭壊死が明らかとなった場合には、しばらく両松葉杖か、装具を用いて手術をした脚に体重をかけないようにして、骨がつぶれることを予防します。体重をかけはじめる期間はX線やMRIの結果をみながら決定します。血行の修復までに数年かかることもあります。
合併症のうち、大腿骨頭壊死、軟骨融解症は特に注意すべきもので、予後不良となることが多いため、術後も慎重に定期的な経過観察を行い、その経過で追加の手術が必要となる可能性があります。
スポーツに関しては、種目にもよりますが、抜去後1か月の時点で問題なさそうであれば徐々に復帰していくように指導しています。
成長中の大腿骨頭に、血行障害による壊死を生じる原因不明の疾患です。~歳の比較的小柄な男児に多いとされていますが、あまり強い痛みを訴えない例も多く、診断が遅れてしまう例もあります。症状が出てすぐは炎症が強く痛みが強い場合、可動域制限(股関節の動きが悪い、特に開きがかたい)のある場合には、入院して牽引療法を行うことがあります。
原則的に外来での装具治療(外転免荷装具)が第一選択となりますが、年齢、壊死部分の重症度、その他の因子を総合的に考慮して手術治療を選択する場合もあります。術式としては、大腿骨の内反骨切り術や骨盤骨切り術から選択されますが、いずれもその目的は、壊死により陥没して球形を失おうとしている大腿骨頭を、まるい臼蓋に深く収めることによって骨頭の球形を維持、あるいは取り戻そうとすることです。
いずれにせよ、骨頭が修復するまでには数年と長い期間が必要です。
外転免荷装具
ペルテス病で
陥没変形した骨頭
大腿骨内反骨切り術+ペンバートン骨盤骨切り術後
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
---|---|---|---|
THA | 102 | 109 | 130 |
人工股関 節再置換術 |
6 | 9 | 12 |
RAO | 13 | 3 | 8 |
その他の 関節温存術 |
1 | 1 | 1 |
小児疾患 | 8 | 5 | 7 |
合計 | 153 | 153 | 176 |
当科の治療に必要な費用は、高額療養費制度が適応されます。
※高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、暦月(月の初めから終わりまで)で一定額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
詳しくは厚生労働省webサイトをご覧ください。
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